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東京高等裁判所 昭和44年(ラ)470号 決定

抗告人 中村俊二

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨は「原決定を取り消す。」というのであり、その抗告の理由は末尾添付別紙に引用して記載したとおりである。記録によれば、抗告人は債務者宮本勝一に対し同人との間に締結した家屋の建築請負契約による不動産工事代金債権残金二一四万円を有していたこと、債務者は右家屋の引渡を受けて昭和四三年二月一二日自己名義に保存登記をなし、かつ同月二八日第三債務者日動火災海上保険株式会社との間に右家屋につき保険金額金三五〇万円の火災保険契約を締結したこと、右家屋は昭和四四年四月一〇日火災により全焼消失し、債務者において第三債務者に対する保険給付金債権を取得したこと、抗告人は債務者に対する前記工事代金債権を保全するため、債務者の第三債務者に対する保険給付金債権の仮差押を求めて、浦和地方裁判所越谷支部に対し債権仮差押の申請をしたこと、同裁判所は昭和四四年四月一八日右申請につき金五〇万円の保証を立てしめて、債権仮差押決定をなし、差押えにかかる債権額金二一四万円と同額の仮差押解放金額を定めたこと、債務者は、右解放金二一四万円を供託し、仮差押執行取消の申立をなし、昭和四四年六月一二日仮差押命令執行取消決定がなされたことが認められる。

抗告人は、本件仮差押により保険給付金債権につき第三者に対し、優先権を主張できる不動産工事の先取特権を保全できることを前提として、解放金の供託により、本件仮差押執行を取り消すと、右解放金については優先権を主張できなくなるから、原決定は不当であると主張する。しかしながら仮差押解放金は仮差押の目的物に代るものとして民法第三〇四条の物上代位の適用をうけるから、抗告人が保険給付金債権について優先弁済権を有するときは、解放金についても同様に優先弁済権を主張できる筋合である。してみると抗告人の権利は優先弁済権の有無という点では保険給付金についての権利であると、解放金についての権利であるとにより差異を見ないから右差異あることを前提とする抗告人の主張は採用できない。

よつて、原決定は相当であつて、本件抗告は理由がないから棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 近藤完爾 田嶋重徳 稲田輝明)

(別紙)

抗告の理由

一、本件仮差押における被保全権利は建築請負代金であり、従つて抗告人(債権者)は右建築にかかる家屋=埼玉県草加市青柳町字大広戸四二六四番地一、家屋番号四二六四番一、コンクリートブロツク及び木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗兼居宅一棟床面積一階六七・二一平方メートル、二階六八・三一平方メートル=に対し、民法第三二五条第二項の不動産工事の先取特権を有していた次第である。

しかる所、右家屋は焼失したが被抗告人(債務者)は右家屋につき、本件仮差押事件の第三債務者との間に火災保険契約を締結したので右保険契約に基づく保険給付金債権を取得し、しかして抗告人(債権者)は前記工事代金保全のため右保険会社を第三債務者として本件仮差押申請に及んだ次第である。

二、抗告人(債権者)は、右仮差押の結果民法第三〇四条の規定により右仮差押債権=保険給付金債権についても請求債権即ち、工事請負代金を先取特権として行使しうるに至つた次第である。しかし乍ら、本件仮差押が取消されるにおいては先取特権保全のための差押の効力も消滅し「供託された解放金についても先取特権を行使し得る」との明確な判断法が確立されていない以上、右解放金について一般債権者より配当加入された場合平等弁済となつて終り極めて不合理な結果となることは明らかである。

結局、先取特権保全のための債権仮差押の場合は、通常の債権仮差押の制度目的即ち、終局判決の執行保全の外に優先権保全という目的がプラスされており、従つて、この場合は、解放金を供託しても執行取消は不可能であると解するより外ない筈である。

右と異なる判断に出た原決定は不当であり、よつて、本抗告に及ぶものである。

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